みんなで「いただきます」。家では「言わへん」という子も大きな声を出していた=大阪市西淀川区
経済的な事情や親の離婚、病気などで夜間1人で過ごす子供が増えている。各地で支援の動きが広がる中、大阪のNPO法人が、子供の自立支援を視野に入れ、夕食づくりや学習支援、多世代とのふれあいを一体にした事業を実施。注目を集めている。(服部素子)
楽しい晩ご飯
「サケ、焼けたで」「豚汁もできた」「ご飯、炊けた!」。火曜日の午後6時半。大阪市西淀川区内の古民家に、子供たちの声が響く。できあがった食事をみんなで並べ、声をそろえて「いただきます」。楽しい食事タイムが始まった。
昨年5月から今年3月まで、NPO法人「西淀川子どもセンター」(大阪市西淀川区)が行った事業「いっしょにごはん! 食べナイト?」。さまざまな事情で夜間を大人不在で過ごす同区内の10歳から15歳を対象に、火曜と土曜の午後5時から8時、ボランティアが見守る中、夕食づくりや宿題、おしゃべりなど楽しい時間を過ごした。計60回開催し、参加登録した8人、延べ287人が利用した。
食事づくりは、買い物から調理、配(はい)膳(ぜん)、後片付けまで子供の手に委ねられた。挑戦したメニューは親子丼、ハンバーグ、シチューなど約50種類にのぼる。参加した子供からは、「ご飯の作り方を覚えて勉強になった」(11歳男子)「みんなでおしゃべりするのが楽しい」(11歳女子)といった声が聞かれた。
無人の家
同センターは、元保護司や児童虐待予防地域協力員らが平成19年に立ち上げた。いじめや虐待などの相談を受けたり、漢字や計算など基礎学力を学び直す手助けなど、子供の支援を行う。「いっしょにごはん-」を始めたきっかけは、そうした支援の中で、子供がふともらした「夜、だれもいない家に帰りたくない」というつぶやきだった。「夕方5時にセンターの活動が終わっても帰りたくなくて、別の場所へ出かけてしまう子供が何人もいる。何とかしたいと思いました」と同法人代表の西川日奈子さん(60)。
早速、先駆的な取り組みを行っている京都市のNPO法人を見学。またサポーター養成講座を開き、20代、30代の若いボランティアにも加わってもらうことにした。帰宅が夜間となるので、ボランティアが徒歩や車で自宅まで付き添うなど態勢も整え、25年12月から翌年3月まで試験的に実施、手応えを感じ、26年度に本格実施となった。
食費にあてる参加費は、1回300円。食費以外の経費は、企業の助成金や地域住民からの寄付、バザーの売り上げなどでまかなった。活動を知ったボランティアの知人が、野菜を無料で届けてくれるようにもなった。
相談できる大人
事業の責任者、吉田智里さん(34)は活動を通して、子供たちが料理をするといった基本的な家事や、季節の行事なども経験が不足していると実感した。一方で、「子供たちから、運動会に来てほしいと言われたり、家の片付けを手伝って、と甘えられたり。困ったら相談してもいい、と思ってくれるようになったのは大きな成果」と話す。
夜間を子供1人で過ごさせない取り組みについて、桃山学院大学社会学部の金澤ますみ准教授(子ども家庭福祉論)は「子供の貧困は経済的な問題だけではない。ひとりぼっちにしないことが重要」と話す。同センターの活動が、調理を通してコミュニケーションを図る手段にもなっており、「子供がその場を楽しく、安心と感じられる。親や教師以外の大人と出会う場にもなっている」と評価する。
27年度も、新しい参加者を募集するなどして事業を継続。西川さんは「これまで目が届かなかった子供たちへの支援のため、行政も学校も地域もより一層の連携が求められている」と話している。
=====
引用元:http://www.sankei.com/west/news/150511/wst1505110008-n1.html
引用サイト: